馬毛島って、どんな島? ①
…序
国民の中には、人の住まない無人島を国の防衛や国際安全保障に役立てるというのだから、さっさとつくらせてはどうか、と思われる人も多かろう。しかし、馬毛島は「ただの無人島」ではない。地元住民にとっては大事な同胞(はらから)のような島なのである。そのことをまず理解してもらわなくてはならない。
…『馬毛島を、知っていますか?』矢板俊輔(西之表市長)、「世界」(岩波書店)2021年2月号 より
…馬毛島は絶海の孤島でもなければ、人を寄せ付けない無人の岩礁でもありません。一時期は500人を超える人が住み、小中学校もあって、厳しい中にも喜びある暮らしがありました。無人島になってからも、漁師さんたちは毎日馬毛島の海で漁をして、種子島の人も磯遊びに出かける場所として親しまれてきました。
種子島の人にとって「生きている島」であり「宝の島」であり続けてきた馬毛島を、無人島という言葉で切り捨てないで欲しいのです。
…『杉戸平和アクション 5周年記念おはなし会に、お集りの皆さま』和田香穂里(西之表市議)より(2020年11月)
馬毛島における施設整備のメリット
_馬毛島は火山活動がなく施設整備に当たって特段支障がありません。比較的平坦で、必要な広さがあります。
…『馬毛島における施設整備』防衛省・自衛隊 (2020年8月7日、説明資料)より
なぜ馬毛島なのか?
〝島〟であり住宅地に隣接していない環境
◯地域の方々に与える騒音等の影響を限定できます。
◯周囲を海に取り囲まれている島の特性から、島嶼防衛に資する訓練の実施が可能になります。
→我が国の防衛のために効果の高い訓練を、環境負荷を抑えつつ実施できます。
…『ご説明資料_馬毛島に自衛隊施設を整備する必要性/馬毛島における自衛隊の訓練計画』(2020年11月25日 防衛省、県知事への説明資料)より
馬毛島(まげしま)。鹿児島県西之表市。琉球弧(南西諸島)の北端、種子島の西に浮かぶ小さな島。現在は無人島。
馬毛島の航空写真を見ると、十字に刻まれた森林伐採の跡が痛々しい。馬毛島は乱開発に晒され、すでに自然が破壊され尽くしてしまった島…、そんなふうに思っている人も多いかもしれない。
馬毛島といえば…、企業による買収工作、乱開発に違法開発、…採石事業が始まったり、レジャーランド計画や石油備蓄基地計画があったり核燃料中間貯蔵施設や産業廃棄物処理場の候補地になったり4千メートル滑走路を持つ貨物空港建設が計画されたり、平和相互銀行事件など数々の疑惑の舞台となったり…。そして今回の国による「買収問題」…。黒い噂のつきない島、そんなイメージを持つ人が多いのかもしれない。
しかし馬毛島とは、ほんとうは、どんな島なのだろうか?
※
馬毛島の軍事利用については、2007年頃から米軍空母艦載機離発着訓練場(FCLP)の移転候補先として噂されるようになり、2011年6月21日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、馬毛島の軍事利用(※「新たな自衛隊の施設のため」「併せて米軍の空母艦載機離発着訓練の恒久的な施設として」)が地元の頭越しに勝手に決められた。
その後、買収交渉が難航し計画は停滞していたが、2019年11月に買収合意が成立し、翌2020年8月、防衛副大臣らが種子島 西之表市を訪れ、「自衛隊馬毛島基地(仮称)」の整備計画について説明をおこなった。そこではじめて、馬毛島にどんな施設を造りどのように使うのか、具体的な計画が明らかになった。
それは衝撃的な内容だった…(詳細は次回②以降にて)
※日米安全保障協議委員会文書『在日米軍の再編の進展』仮訳より
さらに、2020年11月の防衛省による県知事への説明で、離発着訓練は米軍と自衛隊を合わせると年間約150日間行われること、航空自衛隊による機動展開訓練は年間8〜12週間行われること、などが明らかになった。
※
冒頭に引いたように、種子島の人びとにとって、馬毛島はかけがえのない「宝の島」である。防衛省は、この種子島の人びとに向けた資料に、「施設整備に当たって特段支障がない」と書いた。「島の特性」から「島嶼防衛に資する訓練の実施が可能」などと書くことができた。
防衛省/自衛隊の目には、平坦な無人島は格好の不沈空母にしか見えない。薩南諸島に位置する大きな無人島は、先島諸島方面で想定される島嶼戦争の、格好の兵站や機動展開の拠点に過ぎない。そこは国の戦争政策のために都合良く使用されるべき領土/植民地であり、金を払って所有さえすればどう使おうと国の勝手であって、その島を大切に思う人びと、代々島の森や海を守ってきた人びとがいることなど、大した問題ではない…。与那国島〜奄美大島〜宮古島〜石垣島と続いている新基地建設においても、防衛省の住民軽視(無視)の姿勢は一貫している。
しかし私たちは知るべきだと思う。「宝の島」のことを。
自衛隊最大級の基地につくり変えられようとしているのは、どんな島なのか?
2450メートルと1830メートルの2本の滑走路と、巨大な軍港と弾薬庫を備えた、自衛隊史上初の陸海空統合基地につくり変えられようとしているのはどんな島なのか?
南西シフト態勢の弾薬や物資の集積拠点として、輸送の拠点として、増援部隊の機動展開拠点として、いったん始まった島々での戦争の継続を可能にする基地につくり変えられようとしているのは、どんな島なのか?
種子島への凄まじい騒音被害と危険が予想される米軍艦載機離発着訓練(FCLP)をはじめ、自衛隊機FCLPや島嶼戦争に係る各種訓練などが一年中くり返される、かつてなかったような一大訓練場にされようとしているのはどんな島なのか?
(▲ひじょうにざっくりとした馬毛島の年表)
国が企業の乱開発/違法開発に便乗して、なしくずし的に、島がまるごと、軍事基地につくり変えられようとしている。
馬毛島には、人と自然が独特の調和を保ちながら築いてきた歴史と文化があるという。1980年に無人島となった後には乱開発にたいする人びとのたたかいの歴史があり、それは現在も決着することなく続いている。このままでは、そういった歴史も、「宝の島」と呼ばれる島があったことも、まるごと「無かったこと」にされてしまうかもしれない。
だから私は知りたいと思う。そして全国の人びとに、「宝の島」のことを知ってもらいたいと思う。国策の犠牲になれと言わんばかりに、壊され、軍事基地にされようとしている島が、ほんとうはどんなに豊かでかけがえのない島なのか、大きな生態系の中でどんなに重要な島なのか、自然の保全と回復に努めるほうが基地なんかにするよりどれほど将来の世代のためになるのか…。多くの人がそれを知ることが、馬毛島の軍事利用を止める力になり、琉球弧の島々の非武装化と、アジアの未来の平和につながっていくのではないかと思う。
※
…以上のような思惑で、昨年の10月と11月、横浜の「お店のようなもの」と埼玉県杉戸町中央公民館で、「馬毛島って、どんな島」と題しておはなし会を開催しました。
そのとき作成した資料などを使いながら、馬毛島の軍事問題と、自然や歴史、文化について、当ブログにまとめていきたいとおもいます。
…島じまスタンディング 石井杉戸
お店のようなもの
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