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石垣島・平得大俣の森を守れ!

石垣島  平得大俣の森を守れ!】

■樹高が約9mのサキシマスオウノキが約284本…

 

※下に記事追加しました↓。2021.6.19追記①「ンタナーラのサキシマスオオウノキ群落」②「行為通知書疑義問題」

 

委員:樹木の伐採の量はどれくらいですか。

 

事業者(防衛局):樹高が約9mのサキシマスオウノキが約284本、樹高が約1〜2mのクワズイモが約853本、樹高が約2〜13mのスダジイが約16486本、樹高が約2〜13mのアマミアラカシが約8812本、樹高が約2〜6mのクロツグが約7106本となっております。

 

(中略)

 

委員:いずれにしろ、約 83,000㎡をほぼ伐採するということですね。

…『令話3年度第1回石垣市景観形成審議会 発言記録』(2021年4月23日・石垣市役所 第1会議室)より

 

 2006年、石垣市は景観法(2004年公布)に基づく「景観行政団体」となり、2007年に『石垣市風景計画』※を策定した。

 

※ 石垣市風景計画は、市民、事業者、行政ならびに来訪者が、石垣島の風景と向かい合う際の基本理念、基本認識を明示するとともに、良好な風景を保全・創出ならびに次の世代へ引き継ぐための方針、行動指針、推進体制などが明記されており、市民、事業者、行政ならびに来訪者など、風景づくりに関わる全ての人が準拠すべき規範としてつくられています。…『石垣市風景計画 概要版(改訂版)』「計画の意義と役割」より   

▶石垣市風景計画/石垣市ホームページ

 

 この計画の具体的な規制誘導手続きを定める『石垣市風景づくり条例』が2007年に公布された。2007年6月以降、条例で定める行為をする場合、事前に景観法に基づく届出が必要になった。例えば、「建築物/工作物の新築・新設・増築・改築・移転及び色彩の変更」「土地の造成や土地の形質の変更(行為に係る面積が500㎡以上の場合)「樹木の伐採(…推定樹齢が20年以上のもの、又は、高さが5m以上のもの)などが「良好な景観の形成に支障を及ぼすおそれのある行為」として届出が必要になる。

 

 届出された案件については、景観形成審議会を活用しながら協議が行われる。

 


平得大俣の森(写真:石垣島在住のMさん)

 

 景観法に基づく沖縄防衛局による「行為通知書」について、景観形成審議会が市民に周知もされずにひっそりと行われ、協議が終了した。

 

 通知された「行為」とは、陸上自衛隊駐屯地建設計画地内の「石垣市平得大俣1273番地20 ほか20筆」における造成工事と、それに伴う樹木の伐採などの行為を指すようだ。通知書は今年4月13日に石垣市に受理され、5月14日に協議が終了した旨が石垣市から防衛局に通知された。

 防衛局宛の協議終了の通知と、添付書類『令和3年度第1回石垣市景観形成審議会 発言記録』が石垣市のホームページに掲載され ▶ホームページ(ページ下↓にも掲載)、審議会が行われ終了したことが判明した。

 審議会が行われたのは4月23日(金)、石垣市役所 第1会議室。出席者は委員11名、事務局6名と事業者の防衛局。肝心な防衛局による行為通知書の概要説明が省略されていて、防衛局が用意した資料も公開されていないので、何について審議しているのか分かりづらい。ただ、冒頭に引用したように、膨大な数量の樹木(3万3千541本!…「代表的な」伐採木として)が伐採されようとしていることが分かった。発言記録から推測すると、今回届出の行為面積は82,256.2㎡でそのほぼ全てを伐採するが、そのうち数本から10本程度を移植する、また、伐採木の有効利用について検討する、ビオトープをつくりグラウンドには芝生を植える、そのことをもって景観への配慮とするつもりのようだ。

 

 審議はこの一回だけで打ち切られた。82,256.2㎡は、陸自駐屯地計画地敷地面積全体のおよそ18%にあたる。

 

 

 琉球の島々の森といえば、ブロッコリィのような、モコモコとした森が思い浮かぶ。スダジイ(イタジイ)などの常緑広葉樹を優占種とする森。スダジイ約16486本。アマミアラカシも琉球弧の代表的な常緑樹で、奄美大島〜与那国島の固有種。アマミアラカシ約8812本。こんもりした常緑樹の森も、一歩中に入ると、薄暗くひんやりとしたジャングルだろう。ところどころ木漏れ日が降り注ぎ、クロツグの長い葉が光を受けている。クロツグは森林の低木層を構成するヤシ科の植物。幹は高くならないが、葉の長さは3mにも達するという。クロツグ約7106本。傘になりそうな大きな葉でおなじみのクワズイモもあちらこちらに。クワズイモ約853本。それから…、板状の根が特徴の、熱帯の神秘的な木、サキシマスオウノキ。板根は、湿地など弱い地盤でも高く成長できるように発達したものらしい。サキシマスオウノキ約284本

 

 伐採されようとしている樹木の名まえと本数から、豊かな森の姿が思い浮かぶ…。そこには、無数の生きものが暮らしている。

 基地計画地には、天然記念物に指定されているものだけでも、カンムリワシリュウキュウキンバトカラスバトキシノウエトカゲセマルハコガメオカヤドカリコノハチョウヨナグニサンなどが生息している可能性が指摘されている。防衛局は、「希少種など発見された場合は、移動・移植を行うなど、環境に配慮して工事を実施します。」としている(書類『石垣市及び関係機関からの意見等への対応』2019.2.22。▶pdf 個体を移動・移植すれば「環境に配慮」したことになるというのが防衛省の考え方)。

 

 ところで、於茂登岳の麓ー平得大俣のような内陸部にサキシマスオウノキが生育しているのは、珍しいことらしい。

 

…日本では奄美大島を北限とし、沖縄本島、先島群島、特に八重山群島を中心に分布している。幹は灰褐色で、基部にはヘビノようにうねった板根がある。果実は光沢のある明褐色、木質で堅く、海水に浮き、海流によって散布される。そのため、サキシマスオウノキはマングローブの後背湿地や海岸沿いに広く 分布する(Ridley,1930)。

 

…しかし、特異な例として内陸部における分布がSteenis(1984)によって報告されている。ジャワ島から…(中略)…。また、日本では石垣島於茂登岳山麓の標高50〜80mの地点に分布していることがわかっている(天野・前津,1981)。

 

… 調査地は、石垣島の内陸、海岸線からは直線距離で約9km離れた宮良川上流部左岸の、標高50〜80mの谷部地形にある。サキシマスオウノキが生育しているのは、斜面崩壊後に発生した礫の堆積地で、斜度は5〜25度である。表流水や伏流水が流れており、宮良川本流に注ぎ込んでいる、礫の状態や水の流れから、小規模の撹乱が頻繁に発生していると考えられる

 

…従来の立地と異なるところに分布しているにもかかわらず、サキシマスオウノキの相対優占度は高い値を占めていた。これは、於茂登やユツン北西は礫のある沢沿い斜面であり、一般に他の高木種が成立するのは困難であると考えられるのに対し、サキシマスオウノキは板根を広げることによって倒木を防ぎ、撹乱の影響を軽減することができるためと考えられる。そのため、従来と異なる立地環境においても適応し、旺盛に成長できたと考えられる。

 

サキシマスオウノキが生育する条件として、河川の水位の変動や潮汐による周期的な浸水、あるいは沢からの淡水の供給といった水との関係が共通していた

 

論文『西表島・石垣島の谷部に生育するサキシマスオウノキ林の構造について』荒木,安理;加藤,剛;金子,隆之;渡辺,弘之;新本,光孝、1999-12-28より。太字は引用者。▶pdf

 

 この論文の調査地と陸自基地計画地との位置関係は…(▶下の「追記」参照)。しかしサキシマスオウノキ約284本という数からも、これまで言われてきた通り、この陸自基地計画地が「小規模の撹乱が頻繁に発生」するような、表流水や伏流水が豊富な、地下水の涵養地帯と呼ぶのに相応しい場所であることが推測できると思う。於茂登岳を源とする〝命の水〟が島全体に行き渡るのを調整する、集水・保水機能をもつ大切な場所であり、この森を壊して軍事基地にしてしまったら、生活用水や農業用水の汚染が懸念されるだけではなく、土砂災害の危険が格段に高まり、島の動植物の生態系にも重大な悪影響を及ぼすのではないだろうか。

 

2019年12月24日。平得大俣の旧ジュマール(ゴルフ場)造成工事現場の北側に隣接する森。水が豊富で鬱蒼とした森の様子が分かる。撮影:沖縄ドローンプロジェクト

2020年4月4日。旧ジュマールの造成工事では、弾薬庫計画地あたりの、抜いても抜いても湧き出してくる水の処理に苦労しているようだ。ゴルフ場になる前は、生きものたちの楽園でもあったのだろう。撮影:沖縄ドローンプロジェクト

 

 

 景観形成審議会では樹木の伐採の他に、風景計画の基準に違反している以下の3点についても審議された。審議されたが、審議会として承認したり是正を求めたり、特に結論を出すことはないらしい。

 

①切土・盛土の高さ:1ha以上の規模の造成(今回は約19ha)に適用される基準は1m以下だが、最大で6.4mの高さになっている。

②擁壁の高さ:基準は2m以下だが、最大で11.6mになっている。

③法面の勾配:基準は35度以下だが、39度になっている。

 

なお、委員の意見は「審議会からこういう意見があったということを事業者に伝えることで、調整が可能ならば検討していただくということ」とのこと。防衛局宛の協議終了の通知書類にはたったひとこと、下記の(これが意見と呼べるものならば)意見が付された。

 

当該計画の実施にあたっては、引き続き既存樹木の保全、移植を検討するなど、景観法の趣旨に沿うよう良好な景観形成に努めること。


プラカード。pdfデータ、ダウンロードできます。ご利用ください〜



資料


追記① 2021.6.19

ンタナーラのサキシマスオウノキ群落

 

 上に引用した論文のサキシマスオウノキ林は、2016年3月1日、「ンタナーラのサキシマスオウノキ群落」として国の天然記念物に指定された。(「ンタナーラ」は「粘土の川」の意)

 

 「サキシマスオウノキは河川沿いの不安定な崩壊地で,常に過湿な環境に群落を形成している。このような海岸から離れた渓流沿いに群落が発達している例は少なく,学術的価値の高いものとして貴重である。」

▶「文化遺産データベース」より


追記② 2021.6.19

行為通知書疑義問題

 

 サキシマスオウノキ約284本アマミアラカシ約8812本…(伐採する樹木約3万3千本のうち/2021年4月 景観形成審議会での防衛局の説明)。ところが、防衛局が基地建設工事着工前に実施した「現況調査報告書」には、この2種の記載はなかった

 どちらが正しいのか。なぜこのような不一致が生じたのか。まず、詳細を明らかにする必要がある。

 

 今回の行為通知書・防衛局の説明が誤りならば、景観形成審議会のやり直しが必要になる。正確ならば、この森は「ンタナーラのサキシマスオウノキ群落」にも匹敵するような稀少かつ重要な存在であり、ますます伐採などとんでもない、ということになる。このような疑義を見逃した景観形成審議会のあり方も問われなければならない。

 

 6月5日、「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」は声明を発表し、防衛局に伐採の中止と、説明と事実確認を求めている。…伐採は旧ジュマールに隣接する辺りから徐々に始まっている。

 

 

 利権まみれの用地選定、アセス逃れの着工強行、…住民投票もまだ行われていない。そもそもこの場所〜石垣島全体〜琉球弧の島々での軍民混在の戦争を想定した殺戮のための施設である。たいせつな森を破壊して良い理由などひとつもない。

 

 

 

 

 

「沖縄防衛局の伐採通知書に疑義が出る中、旧ジュマールゴルフガーデンの周辺(左下)で伐採が行われている=1日(石垣ドローンチーム撮影・石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会提供)

 

▶八重山毎日新聞、2021.6.6

 サキシマスオウノキは、インド洋・太平洋岸の熱帯・亜熱帯地域、国内では奄美大島〜八重山諸島に分布し、海に近い潮間帯湿地やマングローブ後背地での生育例が多い。石垣市でも内陸部での生育情報は少なく、大木がみつかった際には教育委員会が現地確認に向かった例も少なくない。特に注目されるのが、於茂登トンネル南口に近いンタナーラ川の渓流沿いに生育する群落で、この群落は希少性・学術的価値が高く評価され、「ンタナーラのサキシマスオウノキ群落」として国の天然記念物に指定されている。したがって、当該地に樹高9メートルのサキシマスオウノキが284本も生育しているとすれば、内陸では極めて稀少な大規模群生地として、前述の国指定天然記念物「ンタナーラのサキシマスオウノキ群落」にも匹敵するほどの希少性・学術的重要性をもつ可能性があり、その実態を明らかにするため、直ちに伐採を中止して、公開調査に応じる必要がある。

 

 アマミアラカシは、奄美大島・徳之島・沖永良部島・沖縄本島・石垣島・魚釣島で採集記録があり、主として石灰岩地帯に生育するが、本種の石垣島での分布については、琉球大学収蔵の石垣島産標本が1点(島内での採集地が不明)のみで、天然分布を疑問視する声もあり、分布しているとしても極めてまれというのが植物分類学研究者の一般的見解である。したがって、もし本当に当該地にアマミアラカシが8812本も生育しているとすれば、これは前述のサキシマスオウノキ以上に学術的に注目される分布情報であり、実態解明のため直ちに伐採を中止して、公開調査に応じるべきである。

…「沖縄防衛局は、自衛隊ミサイル基地予定地の樹木伐採作業を即時凍結し、公開調査に応じよ!」

アンパルの自然を守る会 共同代表 島村賢正/八重山毎日新聞、2021.6.16、より


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