【重要土地調査規制法案と有人国境離島法】
…「国境離島」という、国家/軍の論理による島々の位置づけについて。
島々が蹂躙されている。
6月2日、弾薬が宮古島に運び込まれた。自衛隊の弾薬空輸作戦が遂行された。沖縄県内の主要海運業者は5月末、宮古島への弾薬輸送拒否の申し入れ。…なぜ拒否されたのかその理由と向き合おうともしない、憂さ晴らしのようなヘリによる空輸だった。2日14時15分頃、弾薬は野原の空自レーダー基地にヘリで運ばれ、夜、トラックで保良の弾薬庫に搬入された。住民は必死に抵抗したが、警察が力ずくで排除した。
座喜見宮古島市長は自衛隊配備容認の立場だが、搬入日程やルートの開示・安全性の担保を求めていた。それも無視された。5月28日の議員懇談会では「宮古島市が国民保護計画を改訂するまで弾薬を搬入しないで下さいと言ったら応じるか?」との問いに、防衛省は「そういうご意向があれば尊重するのは当然」と回答したばかりだった。
住民の安全に関わる問題はすべて置き去りにされたまま、地元の反対決議も無視されたまま、集落の目の前に造られた基地は今年4月「保良訓練場」として開設した。保安距離の問題は…弾薬の保管量は?保安物件は第何種なのか?、ブースター落下の危険性は?事故の際のシュミレーションは?、…防衛省はまともに答えない。4月中旬からミサイル車両等が出入りして頻繁に訓練が実施されるようになり、5月24、25日には夜間に空砲射撃訓練が行われた。そして、もしも計画通り運用がはじまったら世界一危険だと言われる人命無視の弾薬庫に、弾薬が運び込まれた。弾薬の種類や量は不明だが、大型ミサイルではなかったらしい。ミサイル搬入阻止のたたかいは、これからも続く。地対艦/地対空ミサイルの弾体が運び込まれると、海峡封鎖のための最大のチョークポイントである宮古海峡を目前にする宮古島・保良から、琉球弧を最前線とするミサイル戦争態勢が始動することになる。
これと同時に、国会では「重要土地調査規制法案」が 審議されている。人びとにとって大切な土地が「安全保障上重要な土地」とされ、規制される。好き好んで基地のそばで暮らしている人は、ほとんどいないと思 う。琉球弧の島々では、自然豊かな山の中だろうと人びとの生活圏内だろうとお構いなしに、力ずくで基地が造られている。勝手に基地が造られ、その周りの土地までも規制される。軍事基地(やその他の重要施設)の周辺だけでなく、「国境離島等」も規制対象になる。
そこで戦争をするための基地・ミサイルが押しつけられ島々が蹂躙されているのと同時に、軍の論理を至上価値として島々に押しつけ更なる蹂躙を合法化する法案が審議されている、という現実………。
ところで、「国境離島」(または「離島機能」)とは何か。
安全保障上のリスクに適切に対応するためには、まずは、政府が重要な土地の所有・利用状況を確実に把握することが必要である。
…安全保障の観点から、不適切な利用実態が明らかになる、又は、そうしたリスクが顕在化する可能性が高い状況が明らかになる場合には、土地の不適切な利用を是正する、あるいは、未然防止するといった、実効的な枠組みを整備することが求められる。
…防衛関係施設(自衛隊拠点、米軍基地)に加え、周囲を海に囲まれた我が国の地理的な性質上、主要な機能を担う国境離島の安全を確保し、その機能維持を図ることは、最も重要な課題である。
…また、その機能が阻害された場合に国民生活に著しい影響が及ぶ重要インフラ施設の周辺の土地についても、対象に含めることを検討することが適当である。
…『国土利用の実態把握等のための新たな法制度の在り方について 提言』2020年12月24日 国土利用の実態把握等に関する有識者会議、より(太字は引用者による) ▶pdf
国境離島には多数の無人島、及び過疎化した有人島が散在しておりその警戒態勢は極めて脆弱である。自衛隊、海保、警察、消防及び自治体による国境警備の態勢を組織的に構築する必要がある。そして、それぞれの機能に応じた外交的、警察的役割及び軍事的役割に適時適切に即応出来る態勢を整備強化する。(「6.グレーゾーン事態の対処能力を強化し、事態の拡大を抑止する」より)
南西諸島内の民間空港を有事において自衛隊と米軍が展開地として活用するため、滑走路の補強、駐機場の増設、燃料、整備用資・器材などの事前集積、弾薬庫の整備、管理要員の常駐などを進める。この際、沖縄本島、奄美大島,宮古島、石垣島、与那国島及び南大東島などの空港を重視する。また、南西諸島内に多い小規模港湾を改修し、中型船舶の入港を可能にする。…(中略)…更に、陸路での島内の移動を容易にするため、道路の拡幅、路面や橋梁の強化などを進めるとともに、トンネルを利用した待避所、倉庫などを整備する。加えて、電気、水道、ガス、通信、医療等のライフライン関連施設についても、破壊された場合の予備手段を整備する。なお、これらの整備は政府・自治体の国土強靭化施策と連携して実施する。(「9.防衛インフラや事前集積を整備し、長期持久を可能にする」より)
…『南西諸島防衛に関する提言』2019年7月 列島線防衛研究会、より(太字は引用者による)
…領土を守り、住民の生命・財産を守るという気概を持って島嶼防衛の防人としての役割を果たすためにも、本市議会は石垣島への自衛隊配備を求めるものである。
…『石垣島への自衛隊配備を求める決議』平成28(2016)年9月16日 石垣市議会、より(太字は引用者)
…「対馬警備隊の特徴は、地域との連携が密なところがあります。いざというときには生活の場が戦場となるということに対する地域の人々の理解もあり、対馬では市街地を含め、どこでも実戦のリハーサル(訓練)を行うことができるのです。」と、対馬警備隊長の仲川剛1等陸佐。「当隊は国防を常に肌で感じている部隊といえるでしょう」という言葉には、地勢と歴史からくる重みにあふれていた。
…『Military Report 国境を死守する千年の防人』(「MAMOR マモル」2014年8月号、扶桑社)より(太字は引用者)
荒潮の息吹に濡れて
千古の伝説をはらみ
美と力を兼ね備えた
南海の防壁與那國島
(中略)
お丶汝は
黙々として
皇国南海の鎮護に挺身する
沈まざる二十五万噸の航空母艦だ
…『讃・與那國島』紀元二千六百三年三月 伊波南哲…与那国島 ティンダバナの壁面に掲げられた詩…より
▲与那国島、ティンダバナ
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重要土地調査規制法案(重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案)には、
第一条 この法律は、重要施設の周辺の区域内及び国境離島等の区域内にある土地等が重要施設又は国境離島等の機能を阻害する行為の用に供されることを防止するため、基本方針の策定、注視区域及び特別注視区域の指定、注視区域内にある土地等の利用状況の調査、当該土地等の利用の規制、特別注視区域内にある土地等に係る契約の届出等の措置について定め、もって国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与することを目的とする。
とあり、「国境離島等」や「離島機能」について、以下のように定めている。
第二条
3 この法律において「国境離島等」とは、次に掲げる離島をいう。
一 領海及び接続水域に関する法律(昭和五十二年法律第三十号)第一条第一項の海域の限界を画する基礎となる基線(同法第二条第一項に規定する基線をいい、同項の直線基線の基点を含む。)を有する離島
二 前号に掲げるもののほか、有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法(平成二十八年法律第三十三号)第二条第一項に規定する有人国境離島地域を構成する離島(第五項第二号において「有人国境離島地域離島」という。)
5 この法律において「離島機能」とは、次に掲げる機能をいう。
一 第三項第一号に掲げる離島の領海及び接続水域に関する法律第一条第一項の海域又は排他的経済水域及び大陸棚に関する法律第一条第二項の海域若しくは同法第二条第一号の海域の限界を画する基礎としての機能
二 有人国境離島地域離島の領海等の保全に関する活動の拠点としての機能
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重要土地調査規制法案とは、南西シフト態勢強化のため、特に「国境離島」とされる島々が軍事の最前線としての機能を全うするため、土地の使用に、そしてその土地に関わる人びとの営みに規制をかける…、軍の論理を至上価値とする島々をつくっていくために、そこで暮らす人びとの手足を縛り、意識をも変えていく…、そういう法案だと思う。ところで、「国境離島/離島機能」とは。
細長くのびる日本列島は、「国土」とされる全てが、「国境の島」だと言える。だが軍事戦略上は、そうではない。「本土」と、それに対する「離島」とに切り分けられ、「離島」に「国境」という責務が押しつけられた。いざというときには、そこが戦場になることを受入れる…そういう責務だ。国境の島である離島・とくに琉球弧の島々は、国の安全保障上重要な砦として、実際には日米共同作戦の最前線として、戦争拠点とされることになった。
2017年、「有人国境離島法」が施行された。日本の「国土」とされるたくさんの小さな島々を「国境離島」として「機能」づけていく試みは、これまでも様々な形で行われてきた。その中でも、特に重要なものだと思う。
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「有人国境離島法」
(「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」)
…2016年4月20日 成立/2017年4月1日 施行/同月 政府方針決定/2027年3月31日までの時限立法。
この特措法とそれに関連する施策を盛り込んだ政府方針には、国が「離島」というものをどう位置づけ、どのような形につくり変え(機能づけ)利用していこうとしているのかが、端的に表れている。
「有人国境離島法」は、一方で離島振興を主眼としている。離島振興法(1953年〜)、奄美群島振興開発特別措置法(1954年〜)、小笠原諸島振興開発特別措置法(1969年〜)、沖縄振興開発特別措置法(1971年〜)→沖縄振興特別措置法(2002年〜)、に続く(関連する)離島振興策とも言える。
しかしこの場合の離島振興とは、「有人国境離島が有する我が国の領海、排他的経済水域等の保全等に関する活動の拠点としての機能を維持する」という目的のために、島が無人島にならないようにし、地域社会を活性化させるというものだ。
第一条(目的) この法律は、我が国の領海、排他的経済水域等を適切に管理する必要性が増大していることに鑑み、有人国境離島地域が有する我が国の領海、排他的経済水域等の保全等に関する活動の拠点としての機能を維持するため、有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別の措置を講じ、もって我が国の領海、排他的経済水域等の保全等に寄与することを目的とする。
148の島を対象とした政府方針は、「保全」と「維持」に大別される。
「地域社会の維持に関する施策」としては、航路・航空運賃の低廉化、流通コストの支援、農林水産業の再生、創業・事業拡大の促進、滞在型観光の促進…などが掲げられた。一方で「保全に関する施策」として、国の行政機関の施設の設置(戦略的海上保安体制構築、自衛隊部隊の増強等)、国による土地の買取り、港湾等の整備、外国船舶による不法入国等の防止、広域の見地からの連携、が上げられている。
もともと離島振興策と島の軍事化政策は相性がいいが、ここではあからさまに、様々な地域振興策と島々の軍事化が、同じ目的を持った施策として、また、各省庁自治体民間が一丸となり連携して取り組むべき課題として並んでいる。
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国家/軍の論理による「国境離島」という島々の位置づけ。それに基づき島々をどうつくり変え「離島機能」させていくか、という課題。「有人国境離島法」がそのために島々を援助しつつ管理するものだとすれば、「重要土地調査規制法案」は島々を規制によって管理するものだ。対称的にも見えるふたつの法律・法案は、補完関係にあると言えると思う。
離島振興策は一面では島を豊かにしてきた。しかし一方で、中央権力と島の有力者との癒着を生み、島の産業構造と権力/利権構造を歪めてきた。自立した島の経済が、損なわれた。その構造に縛られて生活・仕事することを余儀なくされた多くの人びとは、権力に対し声を上げづらい立場に置かれてしまった。
「有人国境離島法」は、島の軍事化と振興策をあからさまにリンクさせた。インフラが整備されることは、住民にも軍隊にも望ましいことだ。活気のある島は、住民にも自衛隊員にも心地よい。軍隊が常駐しない島でも、住民が元気であれば島と周辺海域の治安維持に貢献できる。それは、軍事国家における「島」の理想的なあり方を思い描いているようにも見える。戦時中の国策映画のような、混じり気のない「美しい国」で、「お役に立ちたい」人びとと、純粋で誇り高く勇敢な兵士たち皆が一丸となって、悪い敵に立ち向かうために、協力して増強させていく要塞島…。
しかし実際に軍事要塞島をつくるためには「治安維持法」や「要塞地帯法」が必要とされたように、「重要土地調査規制法」が制定されようとしている。島の軍事化は、島を豊かにはしない。軍事要塞化と人びとの平穏で当たり前な生活は両立し得ない。誰も戦争に協力したくはない。そして大切な島が、国が都合良く使うために壊されていく姿が日増しにはっきりと見えてくる。人びとは抵抗する。声を上げづらい立場に置かれても、人びとは声を上げる。だから国は、人びとの声を封じ、抵抗の手段を奪い、社会を戦時体制下に静かに移行させるための法律をつくろうとしているのだと思う。
(注:ここでは「重要土地調査規制法案」について、島々の軍事化に関するものとしてばかり書きましたが、日本全国の「重要施設」周辺が調査・規制の対象となります。)
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以下、「有人国境離島法」に関する政府の基本方針に基づく施策として、2017年〜2019年の3年間でどのような取組がなされてきたか、軍事と琉球弧の島々に関連するものをピックアップしてまとめてみました。
…自衛隊配備も、海保の増強も、離島振興策でもあるインフラ整備も、防災訓練も、同じカテゴリーに属する施策だと分かります。
資料
『有人国境離島地域の保全に関する状況 part2』より 平成29(2017)年4月 内閣府総合海洋政策推進事務局
資料
「国境離島」に関する政府のこれまでの取組として…
『国土利用の実態把握等のための新たな法制度の在り方について 提言』より
2020年12月24日 国土利用の実態把握等に関する有識者会議、参考資料
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