中国脅威論に抗するために
…レイバーネットTV(7月21日放送「特集 : 米中対立~親米でも親中でもない第3の道を選ぼう」)に出ました。
住民の安全・安心、穏やかな平和は力による均衡で保たれていることは世界の常識であり…
(『石垣島への自衛隊配備を求める決議』石垣市議会 2016年9月16日、より)
東西冷戦後、「再定義」された日米安保体制下の新たな日米の軍事戦略は、その正当化のために中国の脅威を必要とした。2000年代、日本では「島嶼防衛」を名目に自衛隊の対中国シフト=南西シフトが始動。2010年以降、日米の中国包囲戦略がいよいよ具体的・本格的に動きだすなかで、日本政府は尖閣3島国有化、中国脅威煽動も本格化。2020年以降、日米が牽引する中国包囲/封鎖は「自由で開かれたインド太平洋」をスローガンに、アジア〜オセアニア〜ヨーロッパの国々を動員して大規模に拡大しつつある。
2021年、東京五輪後には、陸上自衛隊ほぼ全員・14万人参加の過去最大規模の演習が9月から計画されている。「全体主義中国の脅威に毅然と立ち向かうための島嶼防衛作戦」の一大デモストレーションとして、「南西シフト」のお披露目として…、それは五輪後の日本がどこへ向かうのか、方向づけるイベントとなり得てしまうのではないか。そして総選挙を控えた自民党勢力は、五輪後のおそらく疲弊し衰退し混乱した日本社会のなかで、中国の脅威という危機煽動を前面に打ち出してくるのではないか。
現在、ほとんどのマス・メディアとほぼ全ての政党が「中国脅威論」や「中国の悪魔化」を助長している有様であり、反戦運動や基地反対運動に関わる人びとのあいだでも、中国の脅威に対する認識は様々である。こうしたなかで、どうやって、中国脅威論に抗っていけばよいのだろうか、考えると気が重くなります。
コロナ危機の深刻化と東京五輪の強行開催、そして秋に総選挙が控えるなか、 7月のレイバーネットTVはあえて「米中対立」をとりあげます。
7月上旬、麻生太郎副首相は次のように危機を煽りました。「台湾海峡情勢が 悪化した場合、日本は集団的自衛権を行使できる『存立危機事態』になる可能性 がある」「台湾の次は沖縄…」。今後、総選挙も、自民党はこの危機煽動を前面 に押し出すでしょう。だからこそ今、この問題を議論します。
議論で前提としたいことは、米国(+日本)と中国の両帝国の間にはさまれた、琉球弧(与那国島から奄美まで)・台湾・香港・朝鮮半島といった地域の存在です。これら「中間地帯」の人々こそ、切迫した思いで東アジアの平和を希求し続けていますが、「米日vs中国」の軍事緊張が強まるほど、これら中間地帯の人々の平和への願いは窒息させられ、踏みにじられます。しかも日本はただの「米国追従」ではなく、主体的に軍事緊張を維持・強化してもいるのです。
日本に求められていることは、まずは「親米でも親中でもない第3の道」をめざす中間地帯の動きを妨害しないこと。そして日本もその「第3の道」(=脱帝国)をめざすことです。そのために知るべきこと(南西諸島への自衛隊配備=
「要塞化」)、考えるべきこと、克服すべきことなど、大胆に議論したいと思います。
〔出演者〕(あいうえお順)
・石井信久(島じまスタンディング)
・植松青児(司会/琉球弧自衛隊配備反対アクション)
・加藤直樹(ライター、著書『九月、東京の路上で』ほか)
ひとつひとつ、「海洋進出」「現状変更の試み」「尖閣」「台湾」「香港」「南沙」「ウィグル」「チベット」…などなど、問題をほどいていくことは、大事なことだ。そうして本当の事実に即した「中国脅威論のウソ」や「ホント」をみんなで共有できれば良い。しかし、それが困難でも、不可能であったとしても、私たちが共有すべき視点はほかにあるのではないか。もっと基本的な、見過ごしてはならない大事な視点が、あるのではないか。
例えば…日本の植民地支配から解放されたはずの朝鮮半島は、東西冷戦構造下、何度も「ローラーをかけられたような」悲惨な戦場にされた挙句、南北に分断された。日本はこの戦争の軍需により復興へ。東西冷戦が終わったとされる現在も朝鮮半島は分断されたまま。日米と中国との軍事的対立/緊張の持続による秩序(抑止戦略)/新冷戦は、朝鮮半島の南北和解を妨げている。
あるいは…日清戦争後日本が中国から切り離させた台湾。「連続する植民地支配への抵抗を通じて育った台湾ナショナリズム(…加藤さんのお話から)」、台湾の民主主義/自立性、といったものが日米と中国の軍事対立のための格好の餌として使われ、帝国の論理によって歪められようとしている。
琉球/沖縄はおよそ150年前に武力で日本に併呑され、日本の「国境の島」として軍事利用されてきた。悲惨な戦場とされた後は米軍の一大戦争拠点とされた。現在は琉球弧の島々全体が、そこで戦争をするという想定のもとで、壊され、日米供用の軍事要塞につくり変えられようとしている。戦争が目的ではない…誰も戦争はしたくない、のかもしれない。しかし有事の際は、この島々での限定戦争にとどまるよう戦争を誘導する、そのような場として設計されている。(実際に限定戦争で収まるかどうかは別として)
帝国は、自然豊かで独特な文化と人びとの暮らしがある美しい島々を「第一列島線」や「第二列島線」と番号で呼び、そこを最前線としてミサイルを並べ戦争を構えつつ、対立と緊張の秩序をつくる。
帝国の住民は、武力強化による緊張の持続(抑止態勢)が「均衡」だという。それが「平和」だと認めてしまう。…そんな世界に自ら・主体的にはまり込もうとしている。そのために誰が、もう既に、充分すぎるほどに、踏みつけられてきたのか、踏みつけられているのか、帝国の住民は無視している。
もしも仮にその軍備が「抑止」となり戦争に至らなかったとしても、もう充分すぎるほどの「加害」でしかない。そして「脅威論」は、帝国の住民が自らの姿を見ないで済ますためのものとして機能している。
※
加藤直樹さんは、答えは「ふたつのものを見ること。ひとつは、日本を見ろ、ということ。もうひとつは、帝国のはざまを見ろ、ということ。」と語った。そして、「朝鮮から台湾にかけての(←緑の)地域が豊かであることが、東アジアの豊かさである、ということ」「この地域の人びとが平和に暮らせるということ、それを実現する東アジアが、人びとにとって生きやすい東アジアのはずで、そこに向かっていま日本に住んでいる私たちが」どうすべきなのか…、
ぜひ動画もご覧ください。▼(Youtube)
▼(参考)米国の対中戦略について
▼2019年「海洋プレッシャー戦略」では、「第一列島線の前方配備・前方展開」が強化。日米の琉球弧ミサイル戦争態勢。
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