岳之腰と馬毛島環境アセス
「馬毛島基地(仮称)建設事業に係る環境影響評価準備書」
が2022年4月に公開されました。
▶西之表市ホームページ「馬毛島の米軍施設等移転に関する問題について」
※「準備書について環境の保全の見地からの意見を有する方」は、
誰でも「意見書」を提出することができます。
提出期限が迫っています。
6月2日(木)まで!(郵送の場合、当日消印有効)
メールの場合は、
ks-km-tyoutatsu@kyushu.rdb.mod.go.jp
2020年12月に海上ボーリング調査開始強行。2021年2月には環境アセスの「方法書」が公開されアセスの手続が本格的に始まりました。その間、自衛隊基地建設及び米軍FCLP移転先の「候補地」であった馬毛島は、2022年度予算案に建設費を計上することが2021年12月に閣議決定されたことをもって「候補地ではなく決定」だとされました(岸防衛大臣、2022年1月7日の日米安全保障協議委員会(2+2)終了後の記者会見で明言)。今、アセスの手続が終わりに近づいています。
今回の「準備書」には、環境アセスの結果---①事業の実施区域とその影響を受ける周辺地域の自然状況や社会状況の調査結果、②事業の実施(基地建設工事〜基地の存在、基地の運用)による環境の変化の予測、③環境への影響に対して最大限の対策がとられているか、環境保全に関する基準や目標を達成しているかどうかの評価(「本事業の実施に当たっての環境保全への配慮は適正であり、環境保全の基準又は目標との整合性も図られていると判断しました」とのこと。ようするに、馬毛島をほぼまるごとぶち壊して基地にしてやりたいように運用するが、その範囲で可能な環境への配慮は適正だと判断したということ。)---が書かれています。
この準備書に対する「国民等の意見」「知事の意見」「市町長の意見」をふまえて「環境影響評価書」が作成され、環境大臣の意見を聞いた防衛大臣の意見をふまえて「補正」された「環境影響評価書」が公告・一定期間縦覧されたのち工事が始まる、というふうに進みます。このままでは。
(工期は約4年と見積られており、ただし「最低限必要となる施設については先行して完成させる」としています。)
※
今回のアセス「準備書」には重大な欠陥があります。この事業(「馬毛島基地」の建設と運用)がもたらす可能性が高いもの、あるいは想定されている事態、そして環境に影響を及ぼす最大のことがら---、すなわち戦争が起こる/戦争を起こすということについて、馬毛島をふくむ琉球弧の島々が戦場になることによる環境の変化について、「予測」も「評価」も皆無であるという点です。
※
馬毛島を基地にするために、戦争政策遂行のために行われているアセスです。環境への配慮もきちんと行ったというアリバイ作りのためのアセスです。意見書を出すこと自体が防衛省の土俵に乗ることで、基地建設を前に進める行為だという意見もあります。
しかし「反対」の意志を「公的」に示す最後の機会だとも言われています。こんなアセスなど全く認めないし、「馬毛島基地」建設など絶対に許さない!、「馬毛島基地」を島嶼戦争/ミサイル戦争遂行のための兵站・機動展開・訓練拠点とする、琉球弧全体の最前線基地化を許さない!、島々を危険に晒し東アジアの平和への道を閉ざす日本の戦争政策と軍事緊張を自ら高めることでしか存在意義を捏造できない日米安保体制/軍事同盟を許さない!などと書いて、私は提出するつもりです。
「環境保全の見地から」の意見であってもなくても全く構わないと思います。ひとりでも多くの人が、できれば何千万もの人びとが、怒りを込めて意志表示すればいいなと思います。
意見書の提出期限が過ぎても、基地建設を中止に追い込むまで、声を上げ続けていきましょう!
…空飛ぶ鳥は上昇気流を利用して高度をかせぎます。渡り鳥にとって、広大な海に連なる島々は旅の中継点であり、休息の地ともなっています。
馬毛島に飛来する渡り鳥たちは最高地の岳之腰に発生する上昇気流に支えられています。標高七一メートルの頂上に立つと、麓から吹き上がる風が頬をなでます。
その馬毛島の空をムナグロやヒヨドリの大群が縦横に移動するのを私は見たことがあります。集団乱舞を眼前にして想い起こしたのは、古代祭祀跡の保有などで世界遺産に登録された沖ノ島(福岡県)のことです。
今から11年前、台湾から来日した研究者に同行し、玄界灘の孤島、沖ノ島に渡りました。台湾から沖縄、奄美、トカラと続く島々で見られるリュウキュウコノハズクが九州島を飛び越え、周囲4キロの無人島まで渡っている事実に驚き、当時、新聞記者の立場で記事にしました。南北千キロを超えるであろう長旅の途中、ひょっとしたら、馬毛島でも羽を休めているかもしれません。
馬毛島でトビウオ漁が盛んだったころ、漁師たちはトビウオの群れを岳之腰から探しました。周囲360度が見渡せる貴重な場所です。種子島から日々望む馬毛島は、岳之腰を頂点になだらかな島影を見せています。昔から私たちが慣れ親しんでいる風景です。
馬毛島は平らな島だけれど、全く起伏がないわけではない。標高71.1mの岳之腰がある。馬毛島基地計画では、岳之腰は平坦に整地される。滑走路を造るため、工事が始まったら早い段階でつぶされてしまうだろう。
山がないのに真水が流れる不思議な島---馬毛島には16の河川があり、そのうち4つは常時水流があるという。小規模ながら湿地も多く、これらの河川や湿地帯に生息する生物の調査の必要性が訴えられていた(西之表市の『馬毛島活用に係る報告書』2017年12月、など)が、地権者(当時)による越権的な入島拒否により叶わずにいた。今回のアセスでは、16種のゲンゴロウや、17種のガムシ、20種のトンボ、ミナミメダカやオオウナギ、カエルやエビ、カタツムリ・貝類、水辺に集まる様々な鳥類、水草や湿地に生息する植物、などなど、多種多様な生物が確認されている。
16の河川の大半は、上流の方へ辿って行けば岳之腰の麓に行き着くだろう。岳之腰をつぶして平らにしたならば、馬毛島の水の流れに、馬毛島の生態系全体に、重大な影響を与えないとは考えにくい。
しかしこのアセスでは、岳之腰をつぶすということを問題にしていない。
環境影響評価の項目の「選定」と「非選定」の理由というものがある。馬毛島の「地形及び地質の状況」は「馬毛島の最高点は71mです。地形は、岩石台地が広く分布しており、所々に丘陵地がみられます。南部と東部に位置する河川の周辺には、谷底平野が分布しています。海岸沿いに磯が分布し、その少し内陸には崖が分布しています。地質は、砂岩と砂岩・頁岩互層が、縦縞状に分布している様子がみられます。(要約書より)」などと調査され、「対象事業実施区域及びその周囲に重要な地形及び地質は存在しない」という理由で「地形及び地質」は環境影響評価の項目として「非選定」となっている。
学術的に重要だとか貴重だとかは別として、土地の形状が大きく変わるということ自体は、環境とは別の問題だというのか。
「生態系の機能(陸域)」について、「生態系の機能には、生物的な機能、場としての機能、環境形成・維持の機能があります。(準備書)」として、「草地」「樹林地」「湿地・河川等」「海岸植生」「その他」の5つに「類型区分」を 行いそれぞれの機能をまとめ、事業の実施による影響を予測している。そこでは、土地の改変について「類型区分」それぞれの面積が減ることは問題にしているが、岳之腰をつぶすような大規模な土地の改変がこれらの「類型区分」の性質自体を大きく変えてしまうのではないかという視点はない。
土地の改変による個々の生物種への影響は、改変区域内や工事の一時的な影響を受ける場所に生息地があるかどうかが問題とされている。「生息環境の減少により個体群に影響を受ける可能性のある重要な種」のうち「移動能力が低い種」や「希少性が高い種」が「保全対象種」とされ、何らかの(形ばかりの)「保全措置」が検討されている。移動能力の高い鳥類やトンボ類、ゲンゴロウ類などはそれぞれ、「生息環境は変化・消失すると予測されました。ただし、……本種は飛翔力があり移動能力が高いことなどから、個体群は維持されると予測されます。(準備書)」と、勝手に別の場所で生きろと言われている。
そしてどの項目についても結局は「…に及ぼす影響は、最小限にとどめるよう十分配慮されていると考えられることから、環境保全の基準又は目標との整合性は図られているものと評価しました」との結論になる。
このアセスに岳之腰についての記述は見当たらないが、「景観」に関する項目で、岳之腰がつぶされた「馬毛島基地」の姿が、種子島各所とフェリー航路の「主要な眺望点」からの「景観の変化」として、シミュレーション画像で見ることができる。
「飛行場及び施設の存在に伴う」景観への影響として、「人工物の景観構成要素に占める割合が増加しますが、増加の割合は0.02〜0.36%にとどまります。また、自然的な景観構成要素(緑地、岩場・裸地、海)の消失の割合は0.02〜0.43%にとどまります」と予測され、「緑化対策」を行うなどとし、「主要な眺望景観の変化について最小限にとどめています。」「…環境保全の…整合性が図られている…」と評価している。
しかし当然ながら、人がモノを「見る」ということは、視野の範囲内の構成要素の何が何%とか、そういうことではない。ちょっと飛躍した言い方になるが、風景とは、見る者と見られるものがある距離を隔てて対峙する時間に出現する関係性のことだ。馬毛島を愛する種子島の人にとって、岳之腰がなくなるということはおそらく、馬毛島が馬毛島でなくなることだと思う。0.001%の消失であったとしても、岳之腰を頂点とするなだらかな島影の不在は、それを見る者にとって馬毛島の消失そのものであり、決定的なことだ。
馬毛島に基地を造るのではなく馬毛島をまるごと軍事基地に変えてしまう、という計画において、いったいどのような「環境アセス」が可能なのか。と考えた時に、おそらく結論は「馬毛島という価値を無視すること」以外にないだろう。だからこのような、「馬毛島跡地に基地を造る影響を評価する」ようなアセスになるのだろう。馬毛島という価値を象徴するような岳之腰は当然無視されるし、シカは「マゲシカ」というよりも「稀少なシカ」として扱われる。
そもそもこれは、国が私企業の乱開発・違法開発に便乗して行う事業だった。馬毛島買収額およそ160億円は、違法開発による造成費用を「整地料」として上乗せした金額だった。そして、琉球弧を戦場として使うことを想定しているのだった。「馬毛島という価値」など認めるはずはないし、環境への配慮など、するわけがない。
▲「供用時」に、わずかに残されると予測される「草地」「樹林地」「湿地・河川等」「海岸植生」など、陸域のいきものの生息地。工事の実施や基地の運用によるダメージは別として。
上の図には反映されていないが、「工事中」は下図の濃いグレー部分も改変される。▼
文・画像等作成:杉戸石井(島じまスタンディング)
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